【浮世絵でみる豪華絢爛衣裳—打掛—】
第83回企画展 2022年8月30日(火)〜11月27日(日)
上方浮世絵館では、江戸時代の大阪で出版されていた浮世絵を展示しています。大阪の浮世絵は、道頓堀で上演されていた歌舞伎の役者たちを描いた役者絵が多く、当時の芝居の雰囲気を色彩豊かな表現で見ることができます。
なかでもはなやかなのが歌舞伎の衣裳です。役者たちが演じる役柄が、それぞれの扮装によって、遠くの客席からも一目でわかるようになっています。とくに女形の衣裳は、深窓の姫君から粋な芸者まで多岐にわたり、『助六由縁江戸桜』の“揚巻”のような花魁は、衣裳を見るだけで舞台を豪華絢爛な世界へといざないます。
そこで今回の展示では、豪華絢爛な衣裳を代表する【打掛】に注目します。花魁たちが贅を競う【打掛】のほか、武家女性の格式高いものまで、浮世絵にはさまざま描かれます。役者たちが工夫をこらした【打掛】の数々を、上方浮世絵でどうぞご覧ください。
打掛とは
現代において「打掛」といえば、花嫁衣裳としてのそれが一般的に知られる。江戸時代以前においては「小袖」と呼ばれる着物の上へ、肩に打ちかけるように羽織り、裾を引きずるものを指し、武家の女性の正装とされていた。
歌舞伎の衣裳としての打掛は、武家女性の格式ある姿として登場する他、遊女たちの衣裳でもある。高位の遊女としての風格を表すように意匠に凝った打掛をまとう花魁は、傾城と呼ぶにふさわしい贅を尽くした姿である。唐獅子牡丹をはじめ吉祥を表す文様や、立体的に造形されたデザインの打掛は、役を演じるための衣裳というだけでなく、観客の目を楽しませる要素となっている。
豪華な帯を前結びし、返し衿の赤で色気をまとい、かんざしや櫛をいくつも飾ったきらびやかな装いは、打掛とともに見どころである。
武家女性の打掛
遊女の打掛衣裳が豪華絢爛であったのに対して、武家女性たちの打掛は格式高いことが、浮世絵の中でも描き分けられている。打掛のなかでも、刺繍のものより織物の方が格が上とされ、身分の上下を「打掛」からも見ることもできる。
浮世絵に描かれた打掛に目を凝らすと、鹿の子絞りに文字散らしや、金糸での刺繍が用いられているのではと想像されるような描かれ方もあり、武家女性の打掛は舞台を格調の高い世界観へいざなっている。
打掛は、内側に着ている小袖より長く仕立てられ、裾に綿で厚みを出す「ふき」があることにより、足元にまとわりつかないといわれる。武家に仕える女性を指す「片はずし」役などの颯爽とした立ち姿は、打掛の美しい文様と裾を引くことで生ずる重厚さによって際立っている。
絢爛衣裳−小袖・振袖−
「小袖」とは、袖口を縫わずに広くとる「大袖」に対し、袖口が小さいものを指すため、広くは現代における「きもの」も江戸時代以前では「小袖」に分類される。 狭義の「小袖」は、薄綿を入れた絹の袷で、身頃に袖が縫い付けられ「振り」がない。身頃と袖の縫い付け部分を少なくし、「振り」と呼ばれる部分を作ったものが振袖である。
大名や公家の姫役は、赤地に金糸の刺繍がされた振袖を衣裳に用いることが多いことから、「赤姫」と呼ばれる。それに対し、大店の娘役などは友禅染めの振袖が定番である。麻の葉文様や梅などの花散らし文様は、町娘たちの健気で可愛らしい役柄を彷彿とさせる。また、元服前の小さな男の子の衣裳も振袖である。
「小袖」に「打掛」姿の正装は、夏場の暑さには適さず、打掛の肩を脱ぎ腰に巻きつけた姿を「腰巻」と呼んだ。能衣裳の両袖を通さない姿も同じく「腰巻」と呼ばれた。遊女たちの仮装行列を描いた「ねりもの図」には、能衣裳のものもあり、「腰巻」姿を見ることができる。
摺箔と縫箔
織物や刺繍ではなく、金箔や銀箔を摺ってつけた文様を摺箔という。能衣裳の内着などに用いられ、鱗文様などが見られる。刺繍の上に箔を摺って文様をつけたものを縫箔という。能衣裳では、丸文尽くしの腰巻は鬼女の役に用いられることが多い。