第67回企画展

【浮世絵パワースポットめぐり】
2018年3月6日(火)〜2018年6月3日(日)

上方浮世絵館では、江戸時代の大阪で制作された浮世絵を展示しています。大阪の浮世絵は役者絵が多く、歌舞伎役者たちが舞台上で役を演じる姿が描かれています。

歌舞伎芝居では、四季折々の情景を背景とすることで、物語が美しく彩られます。さらに、浮世絵の風景画が旅の情緒を満たしてくれるように、芝居もまた名所や社が登場することで、各地を訪ねた気分にしてくれます。

そこで今回の展示では、芝居の舞台となる神社や仏閣に注目します。
旅に出るには許可が必要な当時の人々にとって、旅行する目的の多くは参詣でした。社寺が背景となる芝居は、旅へのあこがれを満たしていたのかもしれません。浮世絵をご覧になって、みなさまに御利益がありますように。

寿好堂 よし国 画『伊勢音頭恋寝刃』

寿好堂 よし国 画『伊勢音頭恋寝刃』


芝居のなかの社寺〜御利益をもとめて
江戸時代の人々は、神社へ御利益を願い、いまでいうところのパワースポットをもとめて参詣していました。病気であれば、神仏へ願掛けや断物をすることで平癒を願い、参拝をしていました。『菅原伝授手習鑑』の中でも、帝の病気の平癒を願う加茂神社の神事の最中、菅丞相の娘と帝の弟が逢引をしたことで、物語が展開していきます。

また、歌舞伎興行は神社の境内で行われる場合もありました。【宮地芝居(みやち)】や【宮芝居】とよばれ、常設ではない仮設の体裁で認可をうけて上演されました。大阪では御霊社や天満宮などがあげられ、参考にあげた浮世絵では、大当たりしたと記されています。御霊社の御利益のおかげかもしれません。

神となり芝居となった人物
神として祀られるのは、神話に登場する神々と山や木など自然に宿る神々のほか、実在の人物が神となった場合があげられます。

非業の死を遂げた人物が怨霊となりその魂を鎮める信仰は、『菅原伝授手習鑑』の主人公菅丞相のモデルである菅原道真を神と祀りました。

江戸幕府を開いた徳川家康は、死後に日光東照宮へと祀られ、豊臣秀吉は各地の豊国神社に鎮座しています。

ほかにも、頼政神社は、平氏に敗れて自害した源頼政の首を葬った伝承がのこる地に創建され、建勲神社は明治天皇の命により織田信長を祀るなど、各縁起はことなりますが、いずれも伝説となる偉業をなした人物が祭神としてまつられていることは共通しています。その伝説は芝居となり、舞台上でもそのパワーが役者に宿っているともいえるでしょう。

芝居で社寺をめぐる〜行楽をもとめて
江戸時代は東海道をはじめとする街道が整備された時代であり、多くの人々は歩いて各地へと旅をしました。大阪で浮世絵がつくられていた時代には、『東海道中膝栗毛』の弥次さん喜多さんのように、伊勢神宮へ詣でるおかげ参りが大流行しました。

由緒ある神社や寺の名物が取り込まれた芝居は、人々の名所見物の気分を盛りあげたことでしょう。山門から「絶景かな」と感嘆する台詞は、京の眺めを彷彿とさせ、寛永寺の通天橋は美しい紅葉の風景を観客にイメージさせます。

また『敵討崇禅寺馬場』のように、実際の事件をもとにした芝居は、現代のワイドショー的な役割も持っていたことでしょう。仇を討つはずが逆に返討ちにあうという悲劇の現場となった崇禅寺には、今も兄弟の墓が残されています。浮世絵見物の後には、ぜひ歌舞伎の聖地巡礼もお楽しみください。

大阪名所
『京阪土産名所圖画 二十葉』は、京都と大阪の名所をそれぞれ10カ所描いたもので、明治28年(1895年)につくられました。京都名所には、八坂神社や金閣寺などの名所のほか、第4回内国勧業博覧会会場が描かれ、博覧会開催にあわせて制作されたと考えられます。

大阪名所には、天満宮や四天王寺などの寺社にくわえ、造幣局や明治21年にドイツから輸入したトラス橋となった天神橋も描かれています。

明治以後の近代化する大阪にあっても、新しい建造物と並んで寺社が名所として存在していることを示しています。