第89回企画展

【王朝物の芝居】
併設:浮世絵展「源氏物語・江戸に降臨」
第89回企画展 2024年2月27日(火)〜2024年5月26日(日)

上方浮世絵館では、江戸時代の大阪で出版されていた浮世絵を展示しています。大阪の浮世絵は歌舞伎役者たちを描いた「役者絵」が多く、当時の舞台の様子がひろがっています。

役者たちが演じる芝居には、背景となる時代や事件をしめす「世界」という概念をもとに、主な登場人物やストーリーが展開していきます。それにより新作された演目であっても、役者は役への準備がしやすく、観客はどのような芝居であるのかがわかりやすくなります。

そこで今回の展示では、『源氏物語』に代表されるような平安時代の「世界」に注目し、朝廷や貴族社会をあつかった芝居を特集します。これらの芝居には、菅原道真をモデルにした『菅原伝授手習鑑』をはじめ、蘇我入鹿や安倍晴明など、飛鳥時代から平安時代の人物たちが登場します。

また、今回は併設して浮世絵展「源氏物語・江戸に降臨」をご覧いただきます。京都浮世絵文化の会の主催で、個人コレクターがお持ちの貴重な源氏絵の数々を展示していただきます。王朝物の芝居の「世界」と合わせて、どうぞお楽しみください。

春好斎 画 『小野道風青柳硯』
初代嵐冠十郎(伴こはむね)
二代目嵐吉三郎(小野道風)
Arashi Kanjuro I (right, playing the role of Ban no Kowamune)
Arashi Kitsusaburo II (left, playing the role of Ono no Tofu)


「王朝物」とは
歌舞伎の演目は、江戸時代以前の時代を背景とする「時代物」と江戸時代の町人社会を描く「世話物」に大きく分類されます。「王朝物」とは、「時代物」のなかでも、源平合戦以前の朝廷や貴族社会を扱うものを指し、「王代物」とも呼ばれています。また、大職冠という位が与えられた藤原鎌足と蘇我入鹿との対立を描く作品は「大職冠」とも呼ばれ、「妹背山婦女庭訓」はその代表作です。

徳川幕府は当時の武家社会を脚色することを禁止していたため、『忠臣蔵』のような実際に起こった事件をもとにした芝居は、時代を江戸時代以前へと設定する工夫をしています。『忠臣蔵』や「王朝物」と呼ばれる演目も、江戸時代より古い時代を背景としていたとしても、役者たちの衣装や舞台のセットは江戸時代のままであり、現代の時代劇のような時代考証はほとんどされていません。当時の人々は、「王朝物」に正確な飛鳥から平安時代の史実を求めているのではなく、役者の演技に重きをおき、自由に「世界」を楽しんでいたといえるでしょう。

モデル紹介
蘇我入鹿(未詳〜645)
皇極朝(642〜645)の大臣。蘇我蝦夷の子。蘇我系の古人大兄皇子を即位させようと、聖徳太子の王子山背大兄王を滅ぼす。大化元年(645)、中大兄皇子(のちの天智天皇)と中臣鎌足らに暗殺された。

小野道風(894〜966)
平安時代の公卿。小野篁の孫で、小野葛絃の子。平安時代の書家として名高く、藤原佐理、藤原行成とともに三蹟の一人。

菅原道真(845〜903)
平安時代の公卿。宇多天皇に重用され、右大臣となる。藤原時平の讒言により太宰府へ左遷され、配所で没する。死後に怨霊となることを恐れられ、天満天神として祀られ、学問の神様として現在も信仰されている。

安倍晴明(921〜1005)
平安時代の陰陽師。賀茂忠行・賀茂保憲父子を師として天文道・陰陽道を学び、天皇や貴族の占いや祭祀に従事し活躍した。『今昔物語集』などにその逸話が語られ、伝説化されている。



併設:
平安装束を脱ぎ捨て光源氏は江戸時代のスーパースターになった
浮世絵展「源氏物語・江戸に降臨」

ごあいさつ
 
紫式部によって約千年前に書かれた源氏物語は、世界最初の長編恋愛小説として有名です。その影響はあまりに大きく、物語とその解説書に限らず、絵画やパロディーに漫画など、関連する作品は今なお、制作され続けています。

260年間平和が続いた江戸時代に産まれた源氏浮世絵もその一つです。平安貴族の優雅さを残しつつ江戸の風俗で描かれた源氏浮世絵の世界は、源氏物語でありながら、大奥を描いたとも云われ、子女や大奥で絶大な人気を博しました。

今回は、源氏浮世絵の生みの親である三代歌川豊国の作品を中心に展示します。従来の平安装束の源氏絵とは一味違う江戸風源氏絵の世界をお楽しみください。
 
主催:京都浮世絵文化の会 代表 齋藤 彰