第51回企画展

【浮世絵の武者をいろどる武具】
2014年3月11日(火)〜6月8日(日)

上方浮世絵館では、おもに江戸時代の大阪で制作された浮世絵を展示しています。大阪の浮世絵は、道頓堀を中心に上演されていた歌舞伎に出演する役者たちを描いたものが多いことが特徴です。その姿は多くは役の姿で描かれ、当時の舞台を想像させます。

歌舞伎芝居の多くは、歴史上の出来事をあつかう時代物と当時の町人世界をあつかう世話物にわけられます。なかでも時代物は、古くは奈良時代からの武士の世界が表現されることが多く、今でも名を知られた武士もモデルとなって登場します。

そこで今回の展示では、浮世絵に登場する役者たちの武者姿に注目します。甲冑をはじめ刀剣や弓矢などの武具は、かずかずの戦いに向かう武士の悲哀を演じる役者をかざります。鎧の色使いや芝居に登場する名刀など、浮世絵に描かれた武具をぜひお楽しみください。
寿好堂よし国画「こじつけながら真似七変化」
寿好堂よし国画「こじつけながら真似七変化」


役者をかざる甲冑
日本において甲冑は弥生時代に誕生し、戦いの際に身を守るために戦闘方法の変化にともない変遷してきました。平安時代の末頃には大鎧(おおよろい)と呼ばれる兜・胴・大袖のそろった形が登場しました。

栴檀板(せんだんのいた)と鳩尾板(きゅうびのいた)は弓矢を射る際に脇と胸を守る役割を持っていましたが、のちに形骸化し小さくなっていきます。また、胴の腰から下部分草摺(くさずり)が、大鎧から胴丸・腹巻・当世具足へと変遷するにしたがって、細分されるようになります。

しかし、泰平の世が長く続いた江戸時代後半には武士さえも装着が難しくなっており、実用性よりも装飾性が重視された甲冑は、飾りと化していました。

浮世絵に描かれた甲冑は、芝居の舞台となる時代を表すよりも役者が演じる武者をかざり、栴檀板や大袖などにみられる、組紐で小札板をつなぐ縅(おどし)の意匠が、武者の衣装をはなやかに表現したといえるでしょう。

芝居をかざる武具
武具は小道具としてだけでなく、名刀や武具を使いこなす達人などストーリーの要となり、芝居にかかせないものもあります。もっとも武士を象徴する日本刀のなかでも、「正宗」や「村正」など名刀として有名な刀は伝説や歴史的エピソードもおおく、そこから芝居になることもありました。

ここに展示する浮世絵のなかでも、「助六由縁江戸桜」の主人公助六は、源氏の宝刀「友切丸」をさがすため、吉原で喧嘩をしかけては相手の刀を詮索し、ついに意休の刀がそれであることを突き止め成敗します。

「里見八犬伝」に登場する「村雨丸」は斬るたびに刀よりいずる霊水により、血糊が残ることがなかったといわれます。「伊勢音頭恋寝刃」では、主人公福岡貢が主筋のために名刀「青井下坂(下注※)」を取り戻そうとするも、なじみの遊女に愛想尽かしをされて逆上し、十人斬りにおよんだ刀こそ「青井下坂」でありました。このように、刀にまつわる芝居は、その切れ味と同様にどこかヒヤリとさせます。

そのほか刀だけでなく、剣術の達人や弓矢の名人にくわえ槍や鉄砲など、浮世絵にはさまざまな武具が登場します。役者たちの見得や殺陣をかざる武具にもぜひご注目ください。

※「青江下坂」ともいいますが、浮世絵に「あおいしもさか」とあるため、「青井下坂」としています。