第57回企画展

【浮世絵でのむ酒】
2015年9月7日(火)〜12月6日(日)

江戸時代の道頓堀は、歌舞伎をはじめとする劇場が並び、「大坂へ至れば、両三日は芝居にて日を経(ふ)るなるべし」(『摂津名所図会』)といわれ、時を忘れて楽しめるようすがうかがえます。また、劇場とともに“いろは茶屋”とよばれる芝居茶屋もにぎわい、下図「夜顔見世(よるのかおみせ)」(『摂津名所図会』)には宴席を楽しむ人々の影が見えます。
夜顔見世
そこで、今回は「酒」をキーワードに展示をします。劇中でのむ「酒」もあれば、「酔態」が魅せる演技、さらには「盃」をとりかわす絆など、浮世絵に見えるさまざまな「酒」をあつめました。浮世絵でのむ酒を、ぜひご堪能ください。
お染久松色読販国広 画「お染久松色読販」


浮世絵に登場する酒
酒の醸造は古来よりおこなわれ、江戸時代には伊丹や池田や灘の酒が、下り酒として江戸の地でものまれていました。

歌舞伎においても、お酒をのむ場面はさまざまな演目でみることができます。また、徳利をもつ・盃をかわすなど、酒器が小道具として使われ、浮世絵にも描かれています。

さらに、顔見世興行などの際には、贔屓筋からの酒が劇場前に積まれるなど、今も昔も変わらず、祝の道具としてかかせない物です。

ここでは、浮世絵にえがかれた酒や酒器を集めました。日本の酒の楽しみ方や伝統にご注目ください。

宴の演出と酔いの演技
歌舞伎芝居のなかで、酒をのむ場面にかかせないのが、宴席を盛り上げる人々です。「仮名手本忠臣蔵」に登場する一力茶屋のような料亭では、太夫や花魁を揚げるだけでなく、芸者やたいこ持などもよばれました。芝居に登場すると、唄や三味線でにぎやかに、踊りではなやかさが添えられます。

また酒をのむ場面のみどころは、酔った演技です。「勧進帳」のように豪快にのみほすシーンもあれば、「仮名手本忠臣蔵」の一力茶屋の場面では、大星由良之助が仇を油断させるために酔ったふりをしてみせる演技もあります。芝居において酒は、ストーリーに重要な役割をあたえられているといえます。

盃が結ぶ縁
酒は、宗教儀式に用いられることから、清める意味やハレの日の象徴がこめられています。なかでも、結びつきを強くするための儀式として、「固めの盃」や「三三九度」のような盃事があり、よく結婚式にておこなわれます。

めでたい祝言ですが、歌舞伎芝居では「妹背山」のようにあの世で結ばれることを願う悲劇もおおく、「絵本太平記」では、光秀の息子は許嫁との祝言の後、出陣していきます。しかし、「宮城野」は許嫁の金井谷五郎の助太刀で仇討ちをはたし、めでたく結ばれます。

また、「三人吉三」のように血盃をかわす血なまぐさい固めの盃もあり、「夏祭浪花鑑」では、団七と徳兵衛は血を混ぜることで義兄弟となります。

盃が結ぶ縁が、物語のかなめとなり、芝居を展開させています。

酒にまつわる浮世絵
♪京の五条の橋の上〜で知られる「弁慶と牛若丸」。千本目の太刀を強奪しようとして牛若丸に負け家来となった弁慶が、後に義経と安宅の関を越えるストーリーは「勧進帳」となります。弁慶は主の義経をあえて打擲することで疑いをはらし無事に関所をこえると、関守富樫のすすめる酒をのみほし、一行は落ち延びていきます。

大江山の酒好きの鬼「酒呑童子」を退治するため、帝に征伐を任された源頼光は渡辺綱、坂田公時、碓井貞光、卜部季武ら四天王を引き連れていきます。頼光は鬼に酒を飲ませて泥酔させ、寝込んだところを成敗します。頼光四天王は、「土蜘蛛」や「嫗山姥」
などにも登場し、伝説は芝居へと組み込まれていきます。

そのほか、酒にまつわる浮世絵もご覧下さい。