【浮世絵をいろどる背景〜庭園編〜】
2017年9月5日(火)〜12月3日(日)
上方浮世絵館では、江戸時代の大阪で制作された浮世絵を展示しています。
大阪で作られた浮世絵は歌舞伎の役者を描いたものがほとんどを占めている事が特徴です。
歌舞伎の主役は役者たちですが、その背景は舞台をいろどるだけでなく、上演される物語の設定や登場人物の身分を簡潔に示すように飾りつけられます。浮世絵には、それらの舞台装置が背景として描き込まれています。
そこで今回の展示では、浮世絵の背景を取りあげます。
〜障壁画編〜では、ふすま絵や屏風に注目しましたが、今回は〜庭園編〜として屋外の描写に注目します。庭の景色と物語の世界観との関わりをぜひご覧ください。
吉祥としての松
日本庭園には、古来より四季折々の景色が楽しめるよう、種々の植木が組み合わせられます。歌舞伎芝居もまた四季の表現が豊かで、春の桜や秋の紅葉をはじめ、芝居の上演時期や物語の季節にあわせた植物が舞台を飾ります。
種々の植物の中でも、とくに植木として重用されているのが“松”です。“松”は常緑で寿命も長いことから、庭木としても多用されてきました。“松”は繁栄の象徴として、江戸時代の庭作りの指南書※にも、庭の要所に植える役木として多役を担うことが記されています。
また♪粋な黒塀 見越の松〜と歌にもなった『与話情浮名横櫛』のお富のすむような町人宅にも“松”は植えられ、芝居の背景として欠かせない植栽となっています。
※『築山庭造伝』
参考図『与話情浮名横櫛』
水のある景色
自然の縮図を表現する日本庭園において、景色にかかせない要素が“水”です。海や河を表現するだけでなく、夏場の涼をもとめて、池や小川や滝などが配置されました。寝殿造りにおける釣殿とよばれる吹き放ちになった建物は、水辺の涼をとる目的で作られたといわれます。
また滝をつくる事によって水音をたのしみ、“ししおどし”のような水をつかった仕掛けも考案されました。
浮世絵の背景にも、貴族や武家の邸宅には水のある景色が描かれ、舞台となる御殿を格調高く表現しています。
境界をしめす垣
庭の境界を示す囲いを“垣”といい、主に生垣と袖垣に大別されます。生垣は、植栽を利用して庭を囲んだもので、自然の形か形を整えた刈込があります。
袖垣は竹をつかった竹垣が主流で、竹をそのまま縦横に結んだ「四つ目垣」、菱形に結んだ「矢来垣」などがあります。
芝居においても垣は、登場人物の舞台への入退を示すだけでなく、人と人との境界を暗示するなど、重要な道具として使用されます。
石でつくられる風情
灯籠は、仏教の伝来とともに日本へもたらされたと伝えられ、社寺での献灯が主な用途でした。灯籠が庭へ持ち込まれたのは、桃山時代ごろに夜の茶会のための庭の照明として取り入れられたのが始まりといわれています。石灯籠は千利休が露地(茶室の庭)に立てたのが最初で、図のような部から構成されます。
手水鉢や飛石も灯籠と同様に、露地へ取り入れられたことにより、さまざまな意匠がうみだされました。これら庭における石の造形は、 “用”と“美”を兼ねそなえ、庭に風情をもたらします。
浮世絵では、灯籠部分に役者の名前など芝居や浮世絵に関する文字を書き込まれることが多く見られます。
社寺の境内
灯籠や手水鉢は社寺で用いられたのがはじまりです。芝居では社寺が舞台となる事も多く、境内である事を示すため鳥居だけでなく、石灯籠や手水鉢によっても表現されました。