第74回企画展

【浮世絵 松づくし】
2019年12月3日(火)〜2020年3月1日(日)

上方浮世絵館では、江戸時代の大阪で制作されていた浮世絵を展示しています。大阪の浮世絵は、道頓堀を中心に上方で上演される歌舞伎に出演する役者たちを描いたものが多く、役者絵がほとんどです。

歌舞伎の舞台では、季節をあらわすために気候や植物などの自然をはじめ、さまざまな背景が用いられます。なかでも樹木は、春の桜や秋の紅葉のように舞台を彩るものから、物語のシーンにかかせない役割を果たす場合もあります。

そこで今回の企画では、樹木の中でも松をテーマに展示を行います。松は常緑であることから長寿や縁起の良い象徴としてとらえられてきました。正月には門松が立てられるなどの吉祥のイメージは、舞台に重厚な趣をいだかせます。また、そのイメージは松をさまざまに展開させていきます。

浮世絵のなかの松をどうぞお楽しみ下さい。

Keisei Setsugekka

玉柳亭重春 画 「けいせい雪月花」
二代目澤村国太郎(女房おりつ)
三代目中村歌右衛門(五作本名石川五右衛門)


松とは
マツ科マツ属植物の総称で、常緑の針葉樹。北半球に広く分布し、日本に生育する松には、アカマツ・クロマツ・ゴヨウマツなどの種類があります。

日本三景として上げられる天橋立・松島・厳島などには松の景色があり、三保の松原のように三大松原としてあげられる松林は景勝地として有名です。また松には名木も多く、大阪の浮世絵師たちによる『浪花百景』では、「蛸の松(中之島)」や「福島逆櫓松」が名松として紹介されています。

今では松の景色は少なくなってきましたが、『敵討崇禅寺馬場』においては当時の崇禅寺周辺の松原を舞台に、敵討の場面がくりひろげられます。また「見越の松」のように、庭に形よく植えられる様子もよく見られ、松が当時の人々にめでられていたことがわかります。

芝居における松
将軍家など武家の御用絵師として活躍する「狩野派」の絵師達によって、松は城の襖などに多く描かれました。また常緑樹であることから「長寿」や「神聖」のイメージをまとい、松には格調の高さがそなえられてきました。人々の生活にもそのイメージは取り入れられ、松は正月には門松、「松竹梅」は慶事にと重宝されます。

歌舞伎芝居には『勧進帳』をはじめとする「松羽目物」と呼ばれる作品群があり、能や狂言の世界観を歌舞伎へ持ち込んだ舞台は背景に松が大きく描かれ、芝居を格調高く演出します。

『菅原伝授手習鑑』では、「松王丸」のキャラクターである敵視されながらも忠義をはたす心は、「梅は飛び桜は枯るる世の中になにとて松のつれなかるらん」と詠まれるように、心の替わらない様子を松の常緑によせて語られます。

文様の松
松は常緑樹であることから常盤木とよばれ、樹齢も保つことから吉祥のモチーフとして用いられてきました。そのバリエーションは多岐にわたり、若松から老松、松葉や松かさなどがあります。

また、「松竹梅」のように吉祥をかさねあわせる他、松に藤が絡まる様子や松に雪がつもる様子を表現するなど、松を軸に表現は広がっていきます。

見越の松
外から塀越しに見えるように植えている松をさす。「お富さん」の歌詞にも登場する「♪粋な黒塀 見越の松に」は、『与話情浮名横櫛』の一場面。

松羽目物
能舞台を模して舞台正面に老松を大きく描き、左右の袖には竹、下手に五色の揚げ幕、上手に臆病口という小さな引き戸のある舞台装置を用いて上演されるものをいう。

雪持文
草木に積もる雪を表現した文様。冬の美しい情景を表現する文様として、雪持松のほかに雪持柳、雪持笹などがある。

敵討崇禅寺馬場
弟を殺された大和郡山の藩士遠城治左衛門と春藤幾八郎兄弟は、敵である生田伝八を討とうとする。崇禅寺門前での決闘に際し、伝八は松林に多くの助太刀を潜ませており、兄弟は返り討ちにあう。

染模様妹背門松
すでに嫁入りが決まっている質店油屋の娘お染は、丁稚久松との恋をあきらめきれず、両親をはじめ婿の山家屋清兵衛らの配慮に背き、大晦日に久松と心中をとげる。


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