第76回企画展

【光沢の美】
2020年8月4日(火)〜11月15日(日)

上方浮世絵館では、江戸時代の大阪で制作された浮世絵を展示しています。大阪の浮世絵は、道頓堀を中心に活躍する歌舞伎の役者たちを描いたものが多く、舞台の様子やはなやかな衣装に彩られています。

木版によって制作される浮世絵は、絵師が描いた下絵を彫師が版木に細やかに写し取り、摺師によって色が重ねられて作られます。版木へ細かな部分まで正確に彫る技術とともに、さまざまな工夫をこらした摺の方法は、あざやかな歌舞伎の舞台を浮世絵の上に蘇らせます。

そこで今回の展示では、浮世絵に施された光沢の工夫に注目します。舞台上できらめく刀剣の表現や光沢によって浮き上がる衣装の文様など、摺によって表現される輝きは正面から見るだけではわかりません。人々が手にとって楽しんだからこそ見える光沢の楽しみを、ぜひご覧ください。

春好斎北洲『木下蔭狭間合戦』
三代目中村歌右衛(石川五右衛門)


刀剣のつや
歌舞伎の演目には時代物と世話物とがあり、武士の世界が描かれることが多い時代物の世界では、象徴である刀剣が欠かせません。舞台の上で抜かれた刀は、その光沢が観客の目に届き、その鋭さにハラハラさせられます。浮世絵には刃文の様子まで細かく表現され、さらに鋭い輝きが雲母や金属の粉などで銀色に光らせるものも見られます。

光沢の文様
浮世絵に向かって正面から一見しただけでは黒一色に見える着物も、見る角度や光線の加減によって、黒の生地に地模様が出現します。「正面摺り」や「つや摺」といい、通常は版木に絵の具をのせ紙の裏から馬連を当てて摺るのに対し、すでに色が摺られた表面を擦って光沢を出しています。

ガラス越しではわかりにくいかもしれませんが、浮世絵にむかう角度や視点をかえると、模様が浮かび上がります。
見にくい場合は、ライトの貸し出しを行っています。マーク(または矢印)が付いている辺りを下から照らすように当ててみてください。

かがやく摺り
浮世絵の表面がキラキラと輝いているのは雲母と呼ばれる粉末あるいは貝殻の粉が使われています。東洲斎写楽や喜多川歌麿の浮世絵ではこの雲母を贅沢に地潰しに使用し、「雲母摺り」と呼ばれます。

中判の浮世絵には、真鍮泥や錫泥などあるいは絵の具に鉛を混ぜる等、金属の粉を使用した例もあります。これらを使った摺は、絵の具が厚く盛られているため、画面はこってりとした雰囲気となっています。

また、同じ版を使って絵の具を贅沢につかった摺のものと比較的廉価に仕上げた摺のものが作られる場合があり、その摺の違いは一目瞭然です。その違いをぜひ比べてみてください。


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