【浮世絵竹づくし】
第91回企画展 2024年9月3日(火)〜2024年12月1日(日)
上方浮世絵館では、江戸時代の大阪で出版されていた浮世絵を展示しています。大阪の浮世絵は、役者絵が多いのが特徴です。道頓堀の芝居を中心に出演する人気の歌舞伎役者たちが描かれました。
役者絵の主役は役者の姿ですが、その背景となる景色や舞台上の大道具小道具からは、当時の生活様式を垣間見ることができます。なかでもさまざまな場面において登場する「竹」は、芝居に多用されストーリーに重要な役割をもっています。
そこで今回の展示では、「竹」にまつわる浮世絵に注目します。常緑樹で繁殖性の強さから神聖視された「竹」は儀式に使用される場面だけでなく、「竹」の持つ柔軟性から生活に欠かせない建具や道具など、多岐に渡り登場します。芝居や役者の姿とともに「竹」の意匠が示す意味を、どうぞご覧ください。
「伽羅先代萩」と「竹に雀」
「伽羅先代萩」は、江戸時代に仙台藩で実際に起こった伊達家のお家騒動を脚色したもので、伊達綱宗を足利頼兼に、原田甲斐を仁木弾正へ仮託した物語となっています。浮世絵には、頼兼と高尾、政岡と八汐、男之助と仁木弾正と、それぞれの対決場面が描かれます。
「花水橋の場」は、お家乗っ取りを企てる一味の策略にかかり、廓通いをする頼兼が遊女高尾を襲う場面。
「御殿の場」は、頼兼の放蕩により幼くして家督を継いだ鶴千代を守るため、我が子千松が八汐に殺されるのを見守る乳母政岡。その姿から味方と勘違いしたお家乗っ取り一味の連判の巻物が政岡のもとへ。
「床下の場」は、御殿の床下で密かに警護を行う忠臣荒獅子男之助の前に、連判の巻物をくわえた大鼠が現れ、実は仁木弾正であったことがわかる場面。
「刃傷の場」は、細川勝元の証拠により一味の策略が露見した裁きの場で、鶴千代を守る外記左衛門に斬りかかかる仁木弾正。
伊達家の「竹に雀」家紋は養子縁組の引き出物として上杉家から送られたものが始まりといわれています。頼兼の衣装は「竹に雀」がモチーフとなっており、伊達家の家紋をその意匠に取り入れています。
芝居に登場する「竹」
浮世絵がまだ筆で彩色されていた頃に作られた鳥居清倍による「市川団十郎の竹抜き五郎」(東京国立博物館所蔵)には、竹を引き抜こうと筋肉を隆起させ体を朱くして力を入れている姿が描かれています。市川家の荒事の豪快な演技が力強い線で表現されるとともに、竹のしなやかな強さが強調されています。
このように歌舞伎の芝居には「竹」がさまざまな場面で登場します。竹によって組まれた門や柵、竹で作られた床几や道具類など、現代においても日本文化として受け継がれているものもあります。竹を使った演技にご注目ください。
竹笹文様の衣装
四季を通してまっすぐで美しい緑色を保ち、繁殖性が強い竹は神聖視され、神事や儀式に用いられることの多い植物です。門松をはじめ地鎮祭に七夕にと、人々が神に願いを託すときには、竹が重要な役割を果たします。
文様でもおなじく、竹はまっすぐに伸びることから「長寿」、節があることから「節度がある」、筍の成長から「子孫繁栄」、「松竹梅」や「四君子(竹・梅・蘭・菊)」の組み合わせとともに、縁起の良い文様として芝居の意匠に使われています。浮世絵の中から凝ったデザインの竹笹文様を探してみてください。
紫式部源氏かるた
2024年度春期展示にてもご好評をいただきました、浮世絵になった「源氏物語」を紹介します。当館所蔵の二代目歌川国貞による「紫式部源氏かるた」は、「源氏物語」を平安風俗ではなく、江戸時代の風俗で描かれています。
歌川派による「源氏絵」は、柳亭種彦の合巻『偐紫田舎源氏』の挿絵をきっかけに流行します。挿絵を手がけた初代歌川国貞によって作られた主人公光氏像は、浮世絵に「源氏絵」というジャンルを誕生させました。
そのなかでも二代目歌川国貞による「紫式部源氏かるた」は、「源氏物語」の場面によりながらも、謡曲や他の物語などをも取り入れている様子が見えます。
物語の名場面を読み解くとともに、江戸風の解釈をお楽しみください。今回は竹づくしのテーマにちなみ、竹にまつわる場面をピックアップ展示します。