第73回企画展

【納涼 夏芝居】
2019年9月3日(火)〜12月1日(日)

上方浮世絵館は、江戸時代の大阪で制作されていた浮世絵を展示する館です。大阪の浮世絵は、道頓堀を中心に上演されていた歌舞伎に出演する役者たちが描かれることが多く、役者絵がほとんどを占めています。

木版によって制作される浮世絵は、色ごとに版がつくられます。役者絵には、役者たちの姿だけでなく、はなやかな舞台衣装や芝居をかざる大道具や小道具の数々が描かれます。浮世絵は、限られた色数でありながら、舞台の極彩色を表現しました。

そこで今回の展示では、浮世絵の色のなかでも“黄色”に注目します。画面を明るくいろどる黄色は、色としての役割だけでなく、まばゆい光や金色を表現するほか、他色を引き立てる効果があります。浮世絵のなかの役者たちにスポットを当てる黄色を、ぜひご覧ください。

春頂 画『傾城倭荘子』

春頂 画『傾城倭荘子』


浮世絵の黄色
浮世絵の黄色には、おもに鬱金(うこん)・藤黄(とうおう)・石黄(せきおう)が使われました。

鬱金は、植物の鬱金の根茎からとれる黄色染料です。カレー粉の材料となるターメリックの黄色成分クルクミンであり、鮮明な黄色を発色します。

藤黄は、ガンボージとよばれる熱帯植物の幹からとれる樹脂を原材料としています。草(くさ)雌(し)黄(おう)ともよばれ、皮膚病や火傷の治療薬としても使用されました。

石黄は鉱物性の顔料で硫化砒素です。日本画など使用され、半透明の光沢のある黄色を発色します。砒素化合物のため有毒です。

肉眼による原料の識別は難しいですが、いずれもあざやかな黄色が浮世絵を彩色しています。

芝居の秋をいろどる黄色
歌舞伎芝居の魅力のひとつに、四季折々の風情がこめられ、美しい舞台が眼福をもたらしてくれることが挙げられます。なかでも、秋の風情は紅葉の季節とかさなり、目にもあざやかな黄色が映える季節でもあります。

旧暦9月9日の「重陽の節句」は菊の節句ともよばれ、菊の花を愛で、長寿をねがう行事がもよおされました。江戸時代には広く園芸が流行し、菊も品種改良や観賞が行われます。その流行は歌舞伎にも影響し、美しい菊の並ぶ舞台の様子を浮世絵で見ることができます。

また、秋の七草である女郎花のはなやかな黄色、夜空を明るく照らす美しい月の光、赤く染まる紅葉を引き立てる黄葉の様子など、芝居の秋をいろどる黄色をお楽しみください。

黄色と青色を混ぜる
浮世絵に使用される緑色は、おもにその色を発色する原料を使うのではなく、黄色と青を混ぜて作成されます。

三代目歌川豊国による浮世絵の制作風景を描いた『今様見立士農工商』では、摺師の作業場に絵の具を溶いた鉢が並び、その中には緑色の絵の具が用意されている様子があります。

他にも、黄色を摺ったのちに上から青を摺ることで、緑を発色させている場合もあり、『ひらがな盛衰記』の背景にみえる矢羽模様など(部分図)、色の混ざりを利用する方法にもご注目ください。

yellow point
黄八丈:黄色と茶色と黒色を基調とした、縦縞や格子縞に織られた絹織物。歌舞伎衣装に用いられたことから、広く流行した。

黄足袋:多くは白足袋が用いられるが、役柄によって色足袋が用いられる。助六ではウコンで染めた黄足袋が用いられ、足首の見える浅い足袋が粋とされる。

黄潰し:人物の背景となる部分を一色で塗りつぶすように摺ったものを「地潰し」という。黄色の「地潰し」のことを「黄潰し」と呼ぶ。