第50回【浮世絵のいろいろ 〜あか篇〜】
2013年12月17日〜2014年3月9日
上方浮世絵館では、江戸時代に大阪で制作されていた浮世絵を展示しています。江戸時代に誕生した浮世絵版画の魅力は、色を摺りかさねることによって、色彩豊かに表現されるところがあげられます。
浮世絵には、主な輪郭を構成する墨の黒をはじめ、多様な色が使用されています。植物性や鉱物性の絵の具だけでなく、幕末には海外からの化学染料も使われ、“色”からも浮世絵の歴史を見ることができます。
そこで、今回の展示では“浮世絵の色”のなかでも、“あか”に注目します。さまざまな赤色の種類を紹介するとともに、浮世絵の“あか”の表現をご覧いただきたいと思います。
芳瀧画「契情曽我裾野誉」
浮世絵の“あか”
浮世絵版画に使用される絵具は、大きくは植物性の染料と鉱物性の顔料とに分けられます。赤系では、紅花を原料とする紅、酸化第二鉄の弁柄(紅殻)・鉛丹酸化鉛の丹・硫化水銀の朱があげられます。
なかでも紅は、大量の紅花から精製する必要があり、大変貴重な色であるにもかかわらず、その発色は人々を魅了し、浮世絵の初期に制作された紅絵や紅摺絵のころ(18世紀前半)より、好まれてきました。
しかし、万延期(1860~61)ごろ、化学染料であるアニリンが海外より輸入されるようになります。まもなく高価な紅に代わって、扱いやすい洋紅と呼ばれるアニリンが浮世絵に使用されるようになり、明治期の浮世絵はこの洋紅が多用されるようになります。
この流れは上方浮世絵にも見られ、幕末期から明治初期に活躍した芳瀧とそれ以前とでは、赤色の印象がずいぶん違います。ここでは、“あか”の色の違いにご注目ください。
歌舞伎の“あか”
紅花を原料とする紅は、貴重であったにもかかわらず、浮世絵に好んで使われました。また歌舞伎にとっても“あか”の色はさまざまな意味をもち、紅をはじめとする赤色は役者絵において必要な色でした。
歌舞伎芝居の中で、もっとも“あか”が意味を持って使われているのは、化粧であるといえるでしょう。隈取では、役柄によって色が使いわけられ、赤は正義感にあふれた人物であることを示します。一方、赤っ面と呼ばれる顔を赤く塗る化粧は、敵役の家来や手下などの役に多く見られます。
また、深窓の姫君役の衣装は赤色が多いことから、『祇園祭礼信仰記』の雪姫、『鎌倉三代記』の時姫や『本朝廿四孝』の八重垣姫の“三姫”に代表されるような役柄を、赤姫と呼んでいます。
ここでは、歌舞伎に登場する“あか”に注目しました。役者絵の中であかの色は、化粧や衣装だけでなく、小道具や芝居の背景となる大道具にも登場します。当時の舞台をいろどった歌舞伎の“あか”をぜひご覧ください。